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2023.01.08

研究所の建築設計を一から解説。注意しないといけないポイントも。

はじめまして、NDC設計の塩見と申します。

私は幼い頃から建築業界で働く父親の姿を見ながら育ちました。よく新聞に折り込まれている住宅やマンションの広告チラシを見るのも大好きで、
「私だったら、この間取りがいいなあ」など想像を膨らませていました。
進路を決める高校3年生の春、『将来は技術を生かせれる仕事をしてみたい』と決めてはいたものの、はたしてどのような仕事が向いているのかと悩んでいた私に父親が、
「建築に少しでも興味があるなら、専門分野で勉強してみないか?」とアドバイスを貰いました。
その父親の言葉がきっかけになり、専門学校で2年間建築について学び建築業界に入ることとなりました。

NDC設計に入社してからは、技術的な内容はわからない事が多く、事務的な仕事からスタートし、
少しずつですが先輩のお手伝いで図面を描き、現場も同行させてもらいながら、
日々の勉強と貴重な経験を重ね、今では色々な企業様からの設計をさせていただくようになりました。

今回は、私が携わってきた中で、ある医薬品・医療機器メーカー様の研究所の設計から竣工に至るまでの一連の流れや、
設計に対しての必要事項・注意点・苦労した点等を、今までの経験を元に、
私ながらの視点で紹介させていただきます。

みなさん、『研究所』に対して、どのようなイメージを持たれていますでしょうか。
製品の企業秘密やノウハウが生み出されるベールに包まれた建物って感じでしょうか。
少なくとも、私はそう感じておりました。

 

目的は?建設場所は?からスタート

まず研究所設計の計画のスタートは『目的』を設定し『建設場所』を決めることから始まります。

目的

「こんな製品があるといいな」と言われる製品を生み出す場所であり、
さらには実際に使用されているお客様からの「製品のこの部分が~であればいいな」という要望や、自社の営業担当者からの販売促進での意見など、
いまある製品の改善・更新するための場所でもあるのではないかと思います。

建設場所

研究所は何処に建てればいいのでしょうか。
建設場所、立地条件は、建物の規模、必要面積、外構計画によって内容が大きく異なってきます。
研究所で開発し実験を重ね製品化に向けて工場に近い場所に建てる場合では3通り考えらます。

・稼働している工場に増築する場合、更衣室や便所といった室が共有できるため必要面積は小さくなります。ただ増築で接続される部分の工事では工場との調整が必要となります。

・単独の建物として新築する場合、更衣室や便所が必要となるため、必要面積は大きくなります。単独工事のため、既存工場との調整は必要ありません。

・単独の建物として新築し稼働している工場へは廊下で接続する場合、面積は新築と同様となります。廊下で接続するため工場間の動線が可能となるため利便性は良くなります。ただ廊下部分の接続には、既存工場との調整が必要となります。

・お客様の声、営業の意見などのヒアリングを基に研究した内容を、迅速に本社・営業拠点に報告できる場所に建てる場合、主には都心に近い場所になるでしょう。
従業員の通勤は、公共交通機関の利用が主と考える為、来客用+α程度の駐車台数になり外構面積は小さくなります。

・それとは別の目的で単独の場所に建てる場合、事務・厚生施設の面積、従業員の車など必要となり、
研究所としての必要面積はあまり変わらないものの全体の建物面積としては大きくなり、外構の面積も大きくなるため、敷地面積は大きくなります。建設場所の計画には大きく関わってきます。

研究所を建てる目的をもって建設場所を選定し、上記でお話した内容を基に研究所の計画を進めていくこととなります。

私がはじめて研究所の設計を担当させていただいたのは、冒頭でお話した医薬品・医療機器メーカー様の研究所です。
この時の『目的』は、既に研究所がある敷地内に医療関係者向けの研修施設を建設するというもの。
メーカー様の要望としては、現研究所の場所に研修施設を建てるのが利便上良いとのことで、同敷地内の別の場所に研究所を建て替えするという概要でした。
『建築場所』は同敷地。従業員の数は変更ないとのこと。
まずは、現状の研究所を見学させていただきました。
今回の研究所には、複数の実験室の環境があることが分かりました。
白衣を着た研究者の方がシリンダーを持ち作業台に向かい実験していたり、顕微鏡を覗いていたり、
クリーンルーム内で研究されている方もいれば、
作業服に安全靴を履き大型機械を動かしている方が居たりしていました。
なので、設計を進めるにあたって、研究部署の担当者様に打合せする機会を設け、
各研究部署のルールや、開示いただける範囲の内容をヒアリングさせていただきました。

 

『研究所』の設計って、他の建物と何処が違うの?

研究所は、建築基準法の主要な用途では『事務所』となります。
使用上の用途としては、
『事務所』と『工場』の間という感じです。

工場は、製品に品質や性能基準がある為、生産する上で工場内の作業環境が厳しくなり、クリーンルーム(空気中に浮遊する微粒子や微生物が規定数値以下に制御された室)が、必須である場合がほとんどであります。
研究所は、開発・実験・試作が主であり、作業環境が厳しいのは一部の室のみである事が多いため、工場まで基準が厳しいものではありません。

工場と違う点で言うと、製品流れと人の動き方・移動(ここでは『動線』といいます)です。
工場は、製品の流れとしては
資材・原料 → 製造ライン → 中間製品 → 加工 → 仕上げ → 製品倉庫 → 出荷 となり、
人の移動は 一次更衣【着衣】 → (二次更衣) → 製造ライン → 【脱衣】と
製品の流れ、人の移動ともに1通りの動線となります。

研究所においては、その動線が1通りではありません。
製品は研究・開発段階であるため、流れはありません。
人の動線は、構内着(作業服・白衣など)に更衣した後は、各部署によって異なってきます。
1つの例を上げると
所属している部署の事務室で事務処理した後、実験室Aへ移動。
実験で得たデータを基に、実験室Bでの実験へ引き継ぎ。
他のデータも確認の為、実験室Aへ戻る。
など、その時の作業・内容により1通りの動線とはなりません。
『動線』が違うことにより、廊下や扉の設置が必要となり、全体面積、工事費用までが左右されてくることとなります。

では、事務所と違う点は、
事務所設計では特に必要ではない、【ゾーニング】と、【セキュリティー】の考え方が、研究所の設計には必要となることです。

 

研究者様との打合せで分かった設計に必要なポイント!

研究所の設計では、研究内容ごとのゾーニングとセキュリティーの考え方が必要となり
【ゾーニング】と【セキュリティー】で基本設計が決まるのです。
 

ゾーニング

ゾーニングは、関係性のある室や部署を、ある程度まとまったエリアのことを言います。
研究所では、研究内容・実験室の環境などが同じと考えられるものをまとめました。
実験室の環境は
機器の耐久性などの研究・実験を行う物理系の実験室であったり
微生物などの検体を扱うことの多い生物系の研究室。
薬品など掛け合わせるなどの実験を行う理化学系の研究室。
更に実験室の行き来をしてはならない環境下であるものもありました。
ひとつの建物の中でも環境が異なる室がある事がわかりました。

つぎに各実験室の条件の打合せを行いました。
各実験室の配置図(実験機器、什器、資料棚など)を提示いただき、研究者様にヒアリングしました。

実験室には、室の条件や実験機器など特性により、実験室の設備や設定階(1階、最上階)の検討が必要となることがあります。
24時間稼働する機器がある場合、機器の排熱管理など換気負荷、空調負荷の計算が必要となります。
室温・湿度などの空調条件がある場合やクリーンルームがある場合は、空調設備専用の機械室が必要になるほどの設備が要ります。
常に稼働が必要な冷凍機・冷蔵や実験を止めれない機器などには、非常用電源に接続となり発電機の設置がいります。
大型機械で振動・騒音があるものは、その他実験室への影響を防ぐため1階に設置いたします。
ドラフトチャンバーなどの局所排気を要する実験機器は、排気ダクトを短くするため最上階に設置いたします。

研究者様の動線は、実験室内の動き方、実験室と実験室の移動をヒアリングしました。

各実験室の条件でヒアリングした内容を基に
【ゾーニング】の必要面積、設置階を決定いたします。
【ゾーニング】の決定には、研究者様への打合せ・ヒアリングを重ね設計するにあたり一番時間を費やしました。

 

セキュリティー

研究所において、セキュリティーは情報漏洩を防止する上で最も重要な内容です。

今回の計画は、敷地の正面玄関に新に守衛棟を設け、入館手続きをすることとしました。
同敷地内に外部の方が利用する研修施設が出来るため、
研究室ゾーンへは、更にセキュリティーゲートを設け、許可した方のみの通行可能としました。

研究所内のセキュリティーは、3段階ありA(低)B(中)C(高)とあります。
A:打合せ室や購買室といった従業員以外の方が入るエリアの先
B:従業員の一般エリアから研究室エリアへの出入口
C:特定の研究者のみ入室可能な研究室の出入口

セキュリティーの考え方により、一般エリアのゾーニングを何処に配置するのかが変わってきますので、設計の段階で必要な内容です。

ゾーニング、セキュリティーを踏まえた上での基本設計の確定までは、苦労したことであり
かなり長い時間を要しましたが、お客様と打合せを通じ、コミュニケーションが取れ良い関係性が構築できたことは
何事にもかえがたい貴重な経験となっております。

 

まとめ

研究所の設計に必要なものをまとめると、下記になります。
【目的】と【建築場所】 :製品の研究・開発の目的は何か?
目的が達成するには何処の場所がよいのか?
【ゾーニング】:研究内容、各研究部署との関係
【各実験室の条件】:実験室の環境、実験機器
【セキュリティー】:情報漏洩の防止

お客様から、「研究所の設計を依頼するにあたって、全ての内容を踏まえておかないと設計の依頼はできないのでしょうか」と問合せをいただくことがありますが、そうではありません。
あくまでお客様が研究するにあたり必要なものをお伝えいただくだけで問題ありません。
設計にあたり必要な部分は、私たちの方で検討し、その内容はご説明いたします。
検討にあたり不明な点があった場合は、質問させていただきご回答受けた上で図面化し承認いただいた上で進めていきます。
私が携わった案件では、工事が着工してから建物が図面通りに工事が進んでいるかの監理までさせていただいていたものが多く、
施工段階において、実験機器の配置を再度施工図に落としこみ、コンセントの種類や設置場所などの詳細部分についても設計図面と相違ないかを確認し、更にはお客様に設計図面からの変更がないかも確認をさせていただきました。
研究所は、実験のスケジュールや機器の導入の変更があるのは承知の上ですので、施工状況によりますができる限りの部分は対応できるように心掛けております。

研究所で検討されているもの、ご質問などあれば弊社までご連絡いただければと思います。

この記事を書いた人 : 塩見 はとこ

はじめまして、塩見です。        
名建築の空間・雰囲気に身をおくことが大好きな建築女子です。

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