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2023.02.10

工場の建築設計はここが違う!衛生管理を徹底した完璧な設計。

こんにちは!
初めまして、NDC設計の阪上です。
この事務所に勤務して十数年になります。

私は、建築を志した年齢は遅い方でした。地元が兵庫なのですが、阪神大震災により壊れた街並みが、建築を通して再生される様に感動したことで、『あっ、建築の仕事がしたい!』と思い、20代半ばで学校に通い、卒業後に初めて勤務した事務所が、NDC設計で、現在も勤務しております。入社以来、工場施設関係の設計に主に携わっております。

工場建設のプロジェクトに任命されたものの、工場に関する知識がなく、何から着手していいのか、どういった流れで建設されていくのか分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、工場設計における重要ポイントや基礎的な情報を、事前知識のない人にも分かりやすくお届けします。

 

工場の設計はこんなところが違う

工場を設計するのと、その他の建物を設計するのとではどこに違いがあるのでしょうか。
まずは、その違いについてみていきたいと思います。

①建物の大きさ

なんといっても工場建設の特徴は、建てるものが大きいということです。
私もこの事務所に入社し、初めて工場計画をさせて頂いた時にはその規模の大きさにビックリしたことを覚えています。
もちろん建物が大きいとその分、設計も複雑化します。
工場設計はその他の建築物とは異なり、専門的な設計・規制が多く存在しており、工場設計に特化した知見が必須になってきます。

②ゾーニングと動線計画

「ゾーニング」と「動線計画」は工場設計の最大の特徴です。
とはいえ、普段工場設計に関わっていない多くの人は、「ゾーニング」や「動線計画」という単語に馴染みがないと思われますので、解説いたします。
まずは「ゾーニング」について簡単に説明します。

ゾーニングとは、空間を機能や用途に分けて、適切に配置することです。一般的な戸建て住宅におけるゾーニングは、リビングやキッチンなどのみんなで使うパブリックゾーン、寝室や子供部屋などのプライベートゾーン、廊下や階段などの通路ゾーンなどに分けて設計をしていきます。
工場設計におけるゾーニングはこれらの分け方とは変わってくるので、下記で解説していきます。

次に「動線計画」について簡単に説明します。
人やモノが移動する経路を動線といい、動線計画とは、その動線を合理的に配置していくことを言います。例えば、頻繁に利用する動線は短く配置したり、それぞれの動線が交差して混雑することがないように配置したりします。

工場においてゾーニングや動線計画はどのように行われているのでしょうか。

もちろん建屋の箱体だけで、工場は成り立ちません。
生産する機械、そしてその機械が稼働し生産してこそ、初めて工場としての役割を果たします。
しかし、機械を置き稼働させるといっても、空いたところに機械を配置していくという単純な作業ではありません。
例えば、工場には、その生産機械を納める部屋の環境(クリーンルームなど)の整備や、機械を稼働させる為の電気、水、燃料などを供給するユーティリティ設備が必要になります。ユーティリティ設備は間接的にしか生産に寄与しない設備とはいっても、停止すれば生産に多大な影響が出ます。
機能に合わせて、すべての機械の場所を決め、その場に適した環境を考える必要があるのです。

また、電子部品や医薬品、食品などを扱う工場では、衛生面に最新の注意を払うことが必要です。生産するものに問題が生じないよう、目に見えないレベルの細菌やホコリを除去するクリーンルームの整備が必要になります。「人」「モノ」「空気」の動きを徹底的に把握し、交差し汚染することがないかどうか、合理的な設計になっているかどうかを考えます。

また、将来機械が増えた時に、設置するスペースがあるかどうかであったり、ユーティリティ設備が将来対応できるようにしているかなど、将来対応を見越した計画も行います。
空間が大きく、稼働する機械も多く、存在する人も多いため、工場設計はゾーニングと動線設計が特に重要なのです。

③責任者の多さ

関わる人が多いのも工場設計の特徴の一つです。

工場はラインごとに責任者がいるため、非常に窓口が多くなります。だからこそ、工場の設計には多くの専門設計の方々と密に打合せし、一つの工場を作り上げていくプロセスがとても重要になります。工場以外の建築物と違い、関わる責任者が多くなる工場だからこそ、その対応に慣れている事務所に依頼することが重要です。

これらが工場設計と住宅などのその他建築物との大きな違いになると考えられます。

 

 

工場の設計の進め方について

簡単ですが、工場の設計の一連の流れをご紹介したいと思います。

工場設計までの流れ

①発注者の要望(方向性の確認)
・工場計画の概要
・工程計画
・予算計画
発注者の要望をヒアリングし、計画を立てていきます。新しく工場を建設する目的を明確にしておくことが重要になってきます。

②諸条件の把握
・必要な広さ・高さの検討
(生産方法、生産・資材・製品・人の動線把握(人・モノ動線)
・人員の把握(何組・何交代など)
・工場の稼働時間の把握
・生産機器に伴うユーティリティなどの特殊条件の把握
・工場立地の把握(新規所得の場合):気候風土・インフラ・周辺環境の把握
基本計画を立てるために、諸条件を把握します。ここをおろそかにすると、最適な基本計画が立てられず、工場完成後に生産ラインなどの課題が見えてくる恐れがあります。

③基本計画(諸条件を基に計画)
・配置計画(全体動線の計画(ヒト・モノ動線の確認)
・平面・立面・断面計画(生産機械などの配置スペース、高さなどの必要空間の確認)
・設備計画(生産に伴う必要空調環境・電気容量・給排水(特殊排水の有無など)
工場建設は全てこの基本計画をもとに行われます。工場の建設は、もちろん作るところも大事ですが、その後のメンテナンスはもっと重要になってきます。豊富な実績を持つ事務所に依頼しないと、メンテナンスの段階に入った時に、初めに対応しておけば発生しなかった費用が発生してしまうかもしれません。

④基本設計
・配置・平面・立面・断面レイアウトの確定
・各仕上げ・建具などの確定
・設備の仕様確定
・必要な諸条件の確定
・関係法令の確認
基本計画の内容に基づいて大まかな設計を行なっていきます。

⑤概算金額の把握
大まかな基本設計の次に、それにかかる費用を算出します。

⑥実施設計
・基本設計を基に詳細部分の検討・確定
実施設計では、基本設計に基づいてより具体的に設計していきます。

⑦施工業者の決定
・現場説明会の開催
・参加施工業者による入札
・入札金額により工事業者の決定
費用やこれまでの実績、トラブル対応などを勘案して施工業者を決定します。

⑧工事着手
官庁関係等の必要許可が終了次第工事に着手します。

⑨工事監理業務開始
工事が設計図書通りに実施されているかチェックする業務です。

⑩各種検査等(官庁関係・設計・発注者検査含む)
工事が完了したら、特定行政機関による検査が行われます。

⑪引渡し
この様な一連の流れで工場の建築設計を進めております。

 

工場の設計で気を付けていること

工場の設計で気を付けていることは、お施主様がどのような事を求めているかの方向性を見極めることです。
工場の建設にはさまざまなケースがあり、その工場が必要とする背景や目的によって求められる機能や設備によって大きく設計の計画が異なります。
どんな工場を建築するのかという方向性をしっかり見極める事で、設計案の大きな出戻りや、急な変更によるスケジュール遅延や予算超過が起こるリスクを回避できるのです。

その中でも、特に先ほど上げた【諸条件の確認】が重要な点となります。

工場の計画の場合、お施主様側の対応窓口が統一されていれば問題ないのですが、大きな工場などになると、各部門の担当者窓口がたくさんできます。
それらの窓口の要望・必要諸条件などを汲み取り、諸々調整し、ご希望の工場へと計画実現していくのも工場設計の注意しなければいけない点です。
もちろん、工事が始まれば、現場が遅延なく進める為に施工業者との調整も必要となります。

ここで最近弊社が力を入れております食品工場の設計において注意している点をあげて行きたいと思います。
最近の食品工場にはHACCP(※1)対応の工場が求められます。
(※1)
HACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。

HACCP導入工場建設における設計の注意点

①ゾーニング・配置計画(原料入庫から製造・加工工程、保管・出荷)
(交差汚染対策・空気コントロール対策)
②各部屋の温度管理
③外部(出入口)からの防虫・防鼠・異物混入対策・フードディフェンス対策
④清掃やメンテナンスがしやすく、ホコリがたまりにくい内装計画

弊社では上記の内容を特に注意して、食品工場を設計しております。
また、最近は『工場の見せる化(見学者通路設置など)』などの要望も増えてきております。
その様な要望にも対応できる様に設計しております。

 

工場の設計の実例について

私はこの事務所に入ってから、東北地方の工場をメインに設計をさせて頂いておりました。
(雪がしんしんと降り積もる場所になります)

その土地・気候にあった建物を設計するのは当たり前ですが、特に気を使ったのが、防虫対策でした。
設計している工場の用途上、虫には大変厳しく、その防虫対策にとても苦労しました。
周囲の環境にもよりますが、本当に細かい虫ですので、それらを相手にするのは容易ではありません。

怪しい所を見つけては、原因を解消して虫の進入を防ぎ、解消に効果があった内容は、設計にフィードバックし、防虫対策をする。
そういう事で、防虫対策のノウハウを蓄積していきました。
ですので、現在ではその様なノウハウを反映した設計をしております。

工場の設計は本で学べる知識だけでなく、現場でのノウハウが設計に大きく影響してきます。そのため、施工業者選択時には、同様の工事実績があるかどうかを確認することは非常に大切になってくるかと思います。

 

まとめ

工場設計の一般的な建築設計と違う部分や注意しないといけない点は下記になると思われます。

①発注者の要望(方向性の確認)の確認
②諸条件の確認
③生産機器に伴うユーティリティなどの特殊条件の把握
④各種管理基準などへの対応

工場設計は文中でもわかる通り、専門知識(設備機器やユーティリティ設備・各種管理基準など)を基に、お施主様が要望する工場内のレイアウトや生産ライン、働く人々の動線の計画を立て、要望を実現していくことが求められます。
また、建てる工場の用途により、必要な専門知識が変わっていき、日々アップデートされています。

弊社は長年培ってきた工場設計の知識を、日々アップデートしながら、設計業務に活かし、お客様に満足して頂く工場設計を目指して努力をしていきます。

この記事を書いた人 : 阪上 高志

初めまして。阪上です。
建物が出来上がった時の感動が好きで
建築頑張ってます。

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