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2023.04.07
食品工場設計の概要。流れや注意点を解説します。
初めまして、NDC建築設計事務所の松下です。
私は今までずっと建築業界で仕事をしており、このNDC設計で4社目になります。
NDCには、10年間勤務しております。
元々ずっと化学薬品や医療機器の工場設計を専門としていたのですが、近年は食品加工系の工場設計を手掛けることが増えております。
特に食品工場は、他の工場設計と違って、気をつけない点が多いと思います。
この記事で、食品工場の設計についての概要や、他の工場との違い、注意しないといけ
ない点について、私の経験に基づいて説明できればと思います。
食品工場の設計と通常の工場設計の違い
食品工場が通常の工場と最も決定的に異なる点は、厳格な衛生・食品安全基準が必要なことです。
食品工場は、生産、加工、包装の過程で食品が汚染されないように設計・建設される必要があります。
これには、細菌やその他の汚染物質が繁殖するような亀裂や隙間がないこと、表面仕上げ材に食品工場対応の素材を使用すること、ゾーニングによる適切な清浄区域管理と排水システムを設置することなどが含まれます。
下記の点が衛生管理において特に注意すべき項目になります。
・温度(湿度)管理
多くの食品は、その品質と安全性を確保するため、製造・保管時に特定の温度管理を必要とします。
食品工場の設計・施工では、冷蔵エリアや湿度管理されたエリアなど、温度管理された区域の設計が重要になります。
・廃棄物処理
食品工場では、生産に伴う有機廃棄物や包装材など、多くの廃棄物が発生します。
食品工場の設計と建設には、廃棄物を安全に処理し、汚染のリスクを最小限に抑える廃棄物管理計画が必要です。
・水の管理
水は多くの食品に不可欠な成分ですが、汚染源となる可能性もあります。
食品工場の設計と建設には、生産に使用する水の品質と安全性を確保するため、水処理・浄化システムを含む適切な水管理システムを含める必要があります。
・設備と機械
食品加工機器及び機械は、特殊なものが多く、特定の設置要件を必要とします。食品工場の設計と建設では、設備や機械のサイズとレイアウトを考慮し、メンテナンスや清掃のための適切な動線設計が重要です。
・害虫駆除
害虫はすぐに食品を汚染し、消費者に健康被害を与える可能性があるため、害虫駆除は極めて重要になってきます。
害虫が施設内に侵入するのを防ぎ、発生した害虫を迅速に特定し駆除するために、特別な措置を講じなければなりません。
NDCの食品工場設計におけるコンセプト
食品製造工場設計の流れ
下記は、食品工場設計のおおまかな流れになります。
基本設計において前章の注意すべき項目の内容を調査・設計に反映するので、特に基本設計は最も重要な工程だと思われます。
①発注者の要望のヒアリング(方向性の確認)
工場・工程・予算計画の概要をお客様よりヒアリング
②諸条件の把握
必要な広さ・高さの検討
人員・工場の稼働時間・工場立地・生産機器に伴うユーティリティなどの特殊条件の把握
③基本計画(諸条件を基に計画)
配置・設備計画
平面・立面・断面計画
温度管理や廃棄物処理などの気をつけるべきポイントは、ここで詳細を決定していきます。
④基本設計
配置・平面・立面・断面レイアウトの確定
各仕上げ・建具・設備の仕様・必要な諸条件・関係法令の確定
⑤概算金額の把握
大まかな基本設計の次に、それにかかる費用を算出します。
⑥実施設計
基本設計を基に詳細部分の検討・確定
⑦施工業者の決定
現場説明会の開催→参加施工業者による入札→入札金額により工事業者の決定
⑧工事着手
官庁関係等の必要許可が終了次第工事に着手します。
⑨工事監理業務開始
工事が設計図書通りに実施されているかチェックする業務です。
⑩各種検査等(官庁関係・設計・発注者検査含む)
工事が完了したら、特定行政機関による検査が行われます。
⑪引渡し
この様な一連の流れで工場の建築設計を進めております。
食品製造工場建設にあたって気をつけたこと
この章では、実際に私が食品製造工場設計にあたって気をつけたことをご紹介させていただきます。食品の衛生管理手法であるHACCP(ハサップ)に準拠しながら、特に以下の項目に注意を払いながら建築設計を進めていきました。
HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Points(ハザード分析重要管理点)の略で、食品安全管理の世界的な基準の一つです。食品の生産・製造・加工・販売などの各工程で、食品の安全性を確保するための取り組みです。
HACCPでは、食品に含まれる危険物質(ハザード)を分析し、それに対する対策を講じることで、食品の安全性を確保することを目的としています。これによって、食品中に混入する化学物質や微生物、異物などのリスクが低減され、食品の品質が向上することが期待できます。
HACCPの手順は以下の通りです。
- 1.ハザードの分析:食品中に潜む可能性のある危険因子を洗い出す。
- 2.重要管理点の決定:その危険因子を防止できる工程を選定する。
- 3.重要管理点の閾値の決定:その工程において設ける基準値を設定する。
- 4.重要管理点のモニタリング:定期的に検査を行い、基準値が守られているかどうかを確認する。
- 5.問題が発生した際の対処方法の決定:何らかの問題が発生した場合に対処する方法を事前に決めておく。
- 6.記録の取りまとめ:全工程で実施された取り組みの記録を取りまとめ、管理する。
HACCPシステムは、食品業界において広く導入されている安全管理システムであり、品質管理に対する向上効果が期待されます。特に、歴史的に問題があった食品については、HACCPの導入が義務付けられています。
以下の項目が、私が実際の食品工場設計において注意した点です。
・温度管理
温度管理で最も気をつけたことは、生産ラインによって温度を管理することです。例えば、入庫室だと15℃、包装室15〜18℃、冷凍庫前室 5℃、冷凍庫 -25℃と決まっています。また、加工室の熱処理を行う機械廻りは、極めて高温になります。その温度が他の作業域に伝わらないように、部屋の天井から1.5mの断熱パネルをカーテン状に設置しました。
また、常温エリアから冷凍室への移動時など急激な温度変化が生じないよう、冷凍庫前室を設置し温度管理を徹底しております。
温度の管理を徹底することは、水道光熱費やメンテナンス費用に強く関わってきます。
・衛生管理
空気を循環させ、空気中に浮遊する素粒子や微生物を除去し、清潔な環境を整えるための「クリーンルーム」を設置しました。クリーン100000クラスを保つように設計する必要がありました。
・ゾーニング
ゾーニングとは、空間を機能や用途に分けて、適切に配置することです。とりわけ食品工場では、「衛生レベル」に応じた区分けをしていきます。衛生レベルでの区画管理をすることでクロスコンタミネーション(交差汚染)の防止に有効となります。
■「清潔区域」
包装室や盛り付け室などがこの区域に当たります。製造工程の中で、最も清潔な環境が求められます。
■「準清潔区域」
仕込みや調理、加工を行うのがこの区域です。汚染区域から直接入らないようにする前室と、清潔区域に直接入らないようにする前室が必要になります。
■「汚染区域」
外気と接したものを扱う部屋や、製品を出荷する前の部屋がこの区域に当たります。他の部屋との空気汚染を防ぐと同時に、この区域でも埃や塵、虫への対策が重要です。
■「サニタリー区域」
実際に工場で働かれる人が使用する更衣室や休憩室がこの区域になります。
・動線計画
人やモノが移動する経路を動線といい、動線計画とは、その動線を合理的に配置していくことを言います。しっかりとゾーニングされていても、動線計画ができていないと、食品や人が汚染区域から清潔区域に移動した際に、汚れや菌を持ち込んでしまうことになります。なので、通常の工場を建設する時よりも、食品工場の方が動線について極めてシビアに設計していきました。
・防虫・防鼠対策
取り扱う製品の特性によって虫や鼠が発生してしまったり、外から侵入してくるなど、さまざまな脅威があります。虫や鼠を引き寄せる光・熱・匂いを発生させないことや、外部から侵入してくる可能性がある箇所をあらかじめ封鎖しておく、床を高くして対応するなど、徹底的な対策をしていきました。
・排水処理
食品工場は、水を使うため、菌や汚れを流す設計に注力しました。水を綺麗に流すために床の勾配をきつくし、動線を整備しました。具体的には、1/100勾配で設計し、水を使う部屋の床は、耐熱・耐水性の強いものを使用しました。
・メンテナンス性
工場建設に関して、極めて重要なのがメンテナンスを想定して、設計・建設することです。通常、工場は生産を中断することができません。なので、安定的に工場を稼働させるために、メンテナンスは最も重要な要素の一つとなるため、メンテナンスのしやすさを重視していました。
・ジャストスペック
ジャストスペックとは、その工場にとって最も適した設計を行うことをいいます。ニーズを深くヒアリングし、最も適した仕様を実現します。生産する製品の特徴を深く理解し、そのために必要なスペックを、高すぎず低すぎない最も適した形で提案させていただきました。
区画部のシャッター
入荷口の気密ドア
予算と見積もり
食品工場建設において予算と見積もりを策定する際には、まず、建設予算に対し、必要な設備や設置場所、人件費、製品開発費など、多岐にわたるコストを精査することが重要です。リスクを見据えた上で、予算と見積りを設定しなければ後々のトラブルを招くことになりかねません。また、建設期間や生産ライン・工程の規模、生産能力などの適正な設計が必要です。以下は、イニシャルコスト(初期費用)とランニングコスト(運転・維持費用)の二つに分け、主にかかってくる費用をまとめています。
・イニシャルコスト
■土地取得費用
食品工場を建設するためには、適切な場所や用地を確保する必要があります。そのため、土地取得費用がかかります。食品工場を建設する場所には、衛生基準や法令に基づく要件があり、費用をかける必要があります。
■工場建設費用
食品工場を建設するためには、建物や設備を整備する必要があります。建物には、地盤改良や基礎、壁、天井、床などがあり、設備には、生産ライン、細菌検査ラボ、倉庫、トラックドッキングスペースなどがあります。これらの整備と設備設置にかかる費用が、工場建設費用です。
■機械/電気設備費用
食品工場に設置する生産ライン、タンク、輸送設備、検査機器、ボイラーや発電設備等、工場内の機械や電気設備にかかる費用です。これらは、製品の生産速度や生産効率、品質管理に直結してくるため、品質や工夫に応じて、各設備の導入費用も異なってきます。
■工場外装/敷地費用
食品工場の外装や敷地の整備、駐車場、トレーラーヤード、ゲート周辺の適切な装置、警備装置など、工場以外にかかる費用です。工場があって初めて生産活動を行うことができるため、外装/敷地の配慮も非常に重要であり、多くの費用がかかります。
・ランニングコスト
■ 人件費
食品工場での生産作業や品質管理、品質保証、清掃、保管、メンテナンスなどに必要な人材を雇用する必要があります。食品工場は、安全性や衛生面に非常に配慮しなければならず、それに対する人材の技術力やコンプライアンスの徹底が求められます。また、人件費は個々の職種や経験、地域などによって異なります。
■水道光熱費
食品工場で使用される水道や電気、ガス、蒸気などの設備は、動力源として使用され、点検や保守が必要です。使用量に応じた水道・光熱費が発生し、原材料や機械設備同様、コストの一環となります。食品工場は衛生面に大きな要求があり、清潔で安全な環境を維持するために、多くの水道・光熱費が必要とされます。
■保管費用
食品製造に必要な原材料や、製造された食品を保管するための倉庫や冷蔵庫、冷凍庫などを整備する必要があります。また、保管に際しては衛生管理や管理システムの整備も必要であり、管理人員の人件費もかかります。保管費用は、物流や在庫管理などの情報システムにおいてもコストがかかります。
■清掃費用
衛生面を維持するためには、工場内の清掃が重要です。清掃には専用の設備や洗剤、消毒用品が必要であり、これらの費用が清掃費用に当たります。また、清掃は人件費も大きく占め、清掃員の技能と意識も要求されます。清掃の不備は製造工程に影響を及ぼすため、衛生面に関わってきます。
■メンテナンス費用
食品工場内の機械や設備は、日常的に点検や保守を行い、故障時には修理や交換が必要となります。これらの点検や保守、修理作業や交換、予防メンテナンスを行うために、メンテナンス費用が必要となります。メンテナンス費用は、専門の技術者の人件費や、部品や機械の交換費用などが含まれます。
■エンジニアリング費用
食品工場建設においては、計画から設計・施工・試運転・完成までの一連の業務が必要になります。そのため、専門的な技術と知識が必要とされ、エンジニアリング費用が発生します。設計や施工に関わるコストや、専門のコンサルタント費用、監理業務にかかる費用がかかってきます。
まとめ
食品工場建設は、厳格な衛生・食品安全基準が必要であるため、通常の工場とは異なる設計が求められます。例えば、原料から製品まで、すべてのエリアにおいて独自の衛生基準が求められます。そのため、生産プロセスから最適なゾーニングと動線計画を立案する必要があります。設計段階で細部に至るまで、これらの要素を念入りに検討することが食品工場建設の成功の鍵となります。
また、食品工場建設においては、設備や機器のメンテナンスコストを低くすることも重要です。弊社の専門家は、設備や機器のレイアウトや運転方法を考慮し、メンテナンス性を高めるための工夫を凝らした設計をします。このような設計により、食品工場の生産性や効率性を高めることが可能です。
食品工場設計の計画をお持ちの企業様は、ぜひお気軽にNDC設計にご相談いただけますと幸いです。
この記事を書いた人 : 松下 幸治郎
松下です。建築意匠担当です。週末は、山の一軒家(実家)の草刈りがルーティンです。